メソッド紹介
コンスタンチン・スタニスラフスキー
【スタニスラフスキー・システム】
コンスタンチン スタニスラフスキーは、演出家、俳優、演劇理論家。芝居好きな工場主の家に生まれ、16才でマチュア家庭劇団を結成、演出家として経験を積む。その後芸文協会を設立、著名な演出家や歌手を教師に招く等の演劇活動で世間の評判を得る。1897年ネミロビチ・ダンチェンコとモスクワ芸術座を創設、スタニスラフスキー・システムと呼ばれる俳優の演技の実践的に体系づけられた創造的理論を樹立、革命後までソヴェト演劇の指導者となる。自伝「芸術におけるわが生涯」(1926年)、「俳優修業」(’38年)、「俳優の仕事」(2008)等の著書あり。
【スタニスラフスキー・システムの特徴】(八木延佳講師・記)
「スタニスラフスキー・システム」は、[前期](心理的アプローチ)と[後期](身体的アプローチ)にわかれ、両期を【融合(統一)】する[晩年期](心理身体的アプローチ)に至ります。つまり、システムは「3つの時期」から成り立っています。
どの時期に学んだかによって、派生する後輩たちの演技メソッドの特徴が違ってくるのです。
もっとも私自身(八木延佳講師)、高校や大学で25年ほど演技を教えてきましたが、スタニスラフスキー・システムをはじめ派生した西洋の演技法は、初心者にとってはハードルが高いと実感しています。
そこで、そのままするのではなく、それぞれステップを登りやすいように補助する階段のようなワークを考えてきました。
さらに、日本人が本来持っている〝氣〟という概念を用いて、西洋の演技法を翻訳する検証と実践を行ってきました。
特に、近現代劇の一番の要素である【葛藤】をスルーする傾向にある日本人にとって、意識(頭)ではなく、身体(内的感覚)をツールとして使うことが大切だと気づきました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
(田中徹講師・記)
心理と行動の統合
- 感情を「直接表現しよう」とするのではなく、役の目的と行動を追う中で自然に感情が生まれることを重視します。
「もし〜なら」(マジック・イフ)
- 俳優自身の想像力を活用し、「自分がその状況に置かれたならどうするか?」を追体験します。これにより、単なる再現ではなく、真にリアルな演技が可能になります。
与えられた状況と目的の分析
- 台本から人物の背景や状況を分析し、役が「何を求めているか(超目的)」を明確化します。そこからシーンごとの「小目的」と「行動」を組み立て、演技に具体性を与えます。
心身の有機的な結びつき
- 俳優の想像力・感情・身体の動きが一体化することを目指します。身体的行動を通じて内面の真実を引き出すのが特徴です。
サンフォード・マイズナー
【マイズナーテクニック】
マイズナーは、リー・ストラスバーグやステラ・アドラー、エリア・カザンらと共にアメリカの「グループ・シアター」に属し、スタニスラフスキー・システムを土台にして独自の演技術を発展させました。マイズナーはNYのネイバーフッドプレイハウスで教え、スティーブ・マックイーン、ロバート・デュバル、ダイアン・キートン、グレゴリー・ペック、ジェームス・カーン、シドニー・ポラック、デヴィッド・マメットなどの優れた俳優や演出家・劇作家を輩出しました。マイズナーと彼の演技術は、彼が教えていたほとんどの時間はそれほど有名ではありませんでしたが、最晩年の1990年に発表されたドキュメンタリー「Sanford Meisner: The American Theatre’s Best Kept Secret (サンフォード・マイズナー:アメリカ演劇界最高の隠された秘密)」で注目を浴び、21世紀の現在では欧米の俳優学校では必須科目となるような、標準的な演技術として実践されています。
マイズナーは演技を「与えられた状況設定のなかで真実をもって生きる能力」と定義しました。同じくグループシアター出身のリー・ストラスバーグやステラ・アドラーとの最大の違いは、両者が俳優の記憶や想像力を重視するのに対して、一番大事なのは目の前にいる相手だとしたことです。基礎となるトレーニングは「Repetition Exercise(リピテションエクササイズ、繰り返しのエクササイズ)」と呼ばれ、俳優の意識を自分自身ではなく自分の外、特に共演者に向けさせ、観察したものから生まれた衝動のままに反応させます。一連のトレーニングによって俳優は、思考や計画にとらわれた演技ではなく、役を取り囲む状況と有機的な繋がりを持った演技ができるようになります。
フレデリック・マサイアス・アレクサンダー
【アレクサンダーテクニーク】
シェイクスピアの朗唱を主とする俳優だったF.M.Alexanderは、舞台中に声がかすれ出なくなるトラブルに見舞われます。医師のアドバイス(声を出さずに喉を休める)に従いましたが、舞台に立つと同じことの繰り返し。最終的には「声が出なくなるのは、自分自身が行っている何かなのではないか?」という疑問から自ら探求を始めます。その後の長年の綿密な自己観察により問題解決の手立てを発見し、その際導き出された理論が「アレクサンダー・テクニーク」として確立されていきました。彼の発見には、声の問題にとどまらず、人々が抱えるあらゆる問題にも直結する根本的内容が含まれていたことで、様々な分野の人々に受け入れられ、世界中に広がっていきました。
現在では、音楽家、俳優、ダンサー、アスリートなどの技術・パフォーマンスの質の向上や怪我予防のために、また慢性的な痛みや不調を抱えている方々の生活の質向上のためのメソッドとしても幅広く活用されています。
エティエンヌ・ドゥクルー
【コーポリアルマイム】
多くの西洋演劇の歴史家は、エティエンヌ・ドゥクルーをゴードン・クレイグ(超人形論)、メイエルホリド(ビオメハニカ)、スタニスラフスキー(行為の熟練者としての俳優論)、チェーホフ(心理的ジェスチャー)、グロトフスキー、アルトーなどと同じ演出家、教育者のグループに属すると考えていますが、ドゥクルーが他と異なる点は、彼が身体を演劇の基盤とするべきだと考えただけでなく、役者の身体表現それ自体が新しい芸術様式に成り得ると断言したことです。
実際にドゥクルーは、戯曲を主体とする従来の演劇とは一線を画した、役者の身体から形作られる演劇作品を数多く発表し、総合芸術としての演劇からは独立した役者の芸術としてコーポリアルマイムを確立しました。
「マイムには他の芸術を仕上げるよりも、他にやるべき仕事がある」
エティエンヌ・ドゥクルー
コーポリアルマイムは、役者が演技を組み立てる際の「身体のあり方」と「行為のやり方」を詳細に分析した体系的なメソッドを提供することで、「できること」だけでなく、「やりたいこと」を実現するツールを演技者に与えてくれます。コーポリアルマイムは個人の想像力に働きかけ、自らの理想を追求することを促す芸術です。
コーポリアルマイム・アクターは、彫刻と彫刻家の両方を演じるように、造形的で洗練された演技を削り出し、人間の最も実用的な行為から、もっと精神的な活動まで描写します。その様式化された演技は身体の動きという限られた手段によって、人間の精神の働きを示唆し、多くの芸術に見られるような象徴や比喩を用いた表現を生み出します。
マイケル・チェーホフ
【マイケル・チェーホフテクニック】
マイケルチェーホフ(1891~1955)は作家アントン・チェーホフの甥であり、20世紀の偉大な役者の一人である。近代演技術の父であるK.スタニスラフスキーの一番弟子で、チェーホフを「最も素晴らしい俳優である。」と評している。モスクワ芸術座の看板役者として名声を得て、第二モスクワ芸術座では演出家としても活躍した。しかしロシア革命により亡命を余儀なくされた。亡命後はヨーロッパ諸国を回り、短い期間であるがイギリスでスタジオを設立する。後年はアメリカに移り、ハリウッドでスタジオを開き多くのプロの俳優を育成した。チェーホフの直接の指導を受けた俳優として、マリリン・モンロー、ユル・ブリンナー、クリント・イーストウッド、マラ・パワーズ、ゲイリー・クーパーなどがいる。またマイケルチェーホフテクニックを学んだ俳優としてはジャック・ニコルソンやアンソニー・ホプキンズなどがいる。
【マイケルチェーホフテクニックの特徴】
マイケル・チェーホフ・テクニックは、「心と身体をダイナミックに動かし、自由な創造性を育む」演技法です。この方法には大きく三つの特徴があり、俳優が豊かな表現力を身につけるための土台となっています。
まず1つ目は、心と身体が相互的に影響してあっている「サイコ・フィジカルアプローチ」という考え方です。俳優のトレーニングにはただのフィジカルトレーニングがないように、心理面のみのトレーニングもありません。常に心身を使うトレーニングが必要となります。「心を身体のように使い、身体を心のように使う」のようにして、俳優はまず心身の一体感や連動性を理解していきます。役作りにおいても、チェーホフテクニックでは頭だけ使うのではなく「足を使って」、つまり身体を動かしながら、その中で役の目的や感情を見つけていくというアプローチをとります。
2つ目は、イメージやエネルギーといった「見えないもの」を、動きや声などの「見える表現」に変えていくという点です。たとえば、「火のように歩く」とイメージすることで、勢いのある動きになったり、「氷のように冷たい視線」とイメージすることで、冷たく鋭い目の使い方が自然に出てきたりします。こうしたイメージを使うことで、役の表現に深みや説得力が生まれます。
3つ目の特徴は、自分の過去の体験や感情に頼るのではなく、創造する力を使って役に向き合うという点です。チェーホフは、俳優を「芸術家」としてとらえています。俳優は「日常的な小さな自分」ではなく「大きく自由な芸術家」であり、すでにある過去や経験に頼りにするだけでなく、台本の中に生きる人物や物語を想像し、身体を通して創造する存在だという考えます。
このように、マイケル・チェーホフ・テクニックでは、心と身体をバランスよく使いながら、イメージや即興を通して創造力を引き出していきます。役や作品と向き合うプロセスの中で、自由に、そして豊かに表現する力を育てる演技法です。